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「パッシブハウス」ってなに? ”パッシブ”という言葉のゆくえ パッシブハウスジャパン九州エリアリーダー建築YA「髭」のCOLUMN

昨今「パッシブ」という名称や言葉が住宅業界で踊っていますね。

パッシブということばや概念が広がるのは大歓迎!

しかし、間違った使い方をされ、悪い印象がつき廃れてしまうのを危惧しています。

そんな中、九州の猛者でありパッシブハウス・ジャパンエリアリーダーのSiZEの坂本さんが、想いがこもった文章をブログに書かれていましたので、許可を得まして転載させて頂くこととしました。

坂本さんいつもありがとうございます。

Sizeさんのホームページ  <==とても参考になるスバラシイホームページです

「言葉」というものは、私たちにとって大切なコミュニケーションツールであることは自明なのですが、あらゆるものを気軽に消費する事に慣れきってしまっている私たちは、その「言葉」すらをも軽薄に消費して、時流に乗った流行り廃り(はやりすたり)というものを存在させてしまってきているのもまぎれもない事実です。  

最近にわかに、「パッシブ」という言葉が住宅業界で連呼されるようになってきました。省エネ基準が改正されて、日本の住まいも歩みはのろいながら全体として高性能化に向かってはいるのですが、そんな中で、この言葉が頻繁に使われ始めているのです。「パッシブ」とは、「アクティブ」の反対語として、「受動的」「受け身の」「消極的」というような意味を持つ言葉です。

住宅業界では、随分前から、「パッシブソーラー」とか「パッシブデザイン」とかいう言葉は一部の専門分野で使われてきた言葉として存在しますが、この場合「アクティブ」つまり機械的に無理庫裡な設備ではなく、日照や通風と言ったその場所の気候風土を上手く利用して快適な室内環境を構築するという意味で使われます。

「パッシブハウス」とは、ドイツ・ダルムシュタットに拠点を置くパッシブハウス研究所のファイスト博士が提唱した超高性能基準の住宅のことで、厳格な認定基準のもとに研究所が認定をした「住宅」の事を言います。現在日本国内でこの認定を取得しているのは20棟ほど。弊社が関わった「福岡パッシブハウス」も国内3棟目、九州発のパッシブハウスとして研究所のHPでもリストアップされています。
 

さて、これから「パッシブ」という言葉が、どのように広がって行くかという部分において、不安と期待がいっぱいですが、一般の方の視線で考えると、そこには思わぬ落とし穴も沢山存在します。今後この言葉を軽々に消費しない為にも、少し考えてみたいと思います。 

パッシブハウス生みの親 ファイスト博士

まず、何よりも「パッシブハウス」という呼称には明確な基準があります。

数字ばかりで申し訳ないですが、冷暖房負荷がそれぞれ年間15kwh/㎡以下、家電を含む一時エネルギー消費量120kwh/㎡以下、建物全体の隙間の表現が日本とドイツでは違いますが日本のC値に換算するとだいたい0.2㎠/㎡以下という今の日本の住まいからすれば、とんでもなく超高性能な住まいになります。

(2015年4月の国際カンファレンスでは、再生エネルギーの導入比率を織り込んださらにハイレベルな3段階のカテゴリーが発表されました)

パッシブハウス研究所が開発したPHPPという解析ソフトを使い、計画段階と建設後の実証段階でこの基準をクリアしたと認められたものだけが認定物件として登録されるのです。

つまり、この定義を踏襲すると国内にはまだ10棟あまりのパッシブハウスが存在するのみとなります。

世界中でパッシブハウスは広がりを見せていますが、実際に建設を経験した立場からすると、日本も一日も早くそうなら無ければならないのではありますが、今の日本の住宅業界が簡単に一気にシフト出来るようなものでもないという事は認識していなければならないと思います。 

そこで、言葉の恐ろしさですが、「パッシブハウス」ではなく、「パッシブ」という言葉が加速度的に使われ始めると、この定義がうやむやになり、たいして今までと変わらない住まいづくりのレベルの業界までもが、昨日とは別世界の境地に至ったのごとくパッシブパッシブと連呼し始めるのは言葉の安易な消費の弊害以外の何ものでもないと思ったりします。


世の常ですが、理解されていないレベルの人ほどそう言う事になる。新聞織り込みの建て売り住宅のチラシレベルに「パッシブ」という言葉が踊るのを見てしまうと、軽い目眩すら覚えそうです。一般の消費者は、その違いを区別する事が叶いません。罪作りな業界にしない為にも、このあたりは明確に表現して行かなければならないと思います。

2014年1月にインスブルック大学を尋ねた私たちに、ファイスト博士はご講義が終わられたばかりなのに別教室をご用意くださって特別にお話をしてくださいました。

そこでまず語られたのが「パッシブハウス基準」というものが、あらゆる検証から導きだされたスタンダードだという事でした。

人種や、気候風土や様々な条件からも、この性能をスタンダードとする事が望ましいという意味の事をおっしゃられました。

日本では、雲の上の超高性能と形容される性能ですが、沢山の統計データやを示してパッシブハウスの生みの親はそう語られたのです。

ここに、地方差による性能の手加減やアレンジはも何も無い、スタンダードだと。

衝撃でしたが、私たちはその講義で腑に落ちました。

「パッシブハウス基準」は性能基準であり、ルールはありますが、工法や材料の指定などは一切ありません。

万人が快適で、消費エネルギーを極限まで少なくして暮らす為の性能基準なのです。これが、全てだと考えれば、「パッシブ」という言葉が闇雲に多用されて、中途半端な性能の住まいが今後もあたかもレベルアップしたかのように温存されるカモフラージュの道具になる事は避けて行かなければなりません。
 繰り返しますが、現在の国内のパッシブ認定を受けた案件は20棟あまり、全国各地で真摯にこれに追いつこうと住まいづくりに邁進している仲間も増えてきています。そう言う勉強熱心な方達ほど、「パッシブ基準に準拠」とか「パッシブハウスレベル」と言う繊細な表現できちんと区別をしています。問題なのは、何の縁もゆかりも無くそろそろ時代は「パッシブ」だと商魂逞しい輩に他なりません。先日も、「パッシブハウスのモデルルーム出来ました」との記事。よくよく調べてみると根拠も無く性能は雲泥の差がある別物だと言う事がわかりました。これからこういう事が多発しないとも限りません。

インスブルック大学への訪問の夜は、博士と夕食をともにする厚遇に恵まれました。

そのときにも、博士は「パッシブハウス」が始まった頃のお話をしてくださいました。

もちろん当時は高性能サッシなど無いからご自分たちで通常の木製サッシに断熱材を貼付けて性能を出したりと大変なご苦労をされたことを名刺の裏にスケッチでディテールを描きながら説明してくださいました。少しずつでも確実に、広げて行く事が大切だとも語られました。


 日本国内でも、省エネ基準の改正を受けて、にわかに性能アップの気運が高まりつつあり、昨今、しきりに「パッシプ」という言葉が連呼され始めている事は悪い事ではありません。

ただ、パッシブハウスの性能を深く理解し、一気にそこへ駆け上がれば問題ないのですが、ここで二の足を踏む事は、千載一遇のチャンスをみすみす中途半端なものへ落ちつかせてしまう危険を孕んでいます。

「パッシブデザイン」の要素を取り入れたところで、「パッシブハウス」の性能であるという事ではありません。「パッシブデザイン」とは方法論であり、「パッシブハウス」は性能基準に基づいた一定レベルの住まいの事を言います。

「パッシブハウス」は当然ながら、パッシブデザインの方法論で作られていますが、「パッシブデザイン」したからといって全てが「パッシブハウス」であるとは限らないのです。
 一般の方は極めて分かりづらい話しですし、安直に「パッシブハウス」という言葉を商売で乱用するプロでもこの辺りの定義が曖昧な方が沢山おられることに危惧の念を抱かずにはいられないのです。(つづく)